経営情報とは

従来より、四大経営資源として、ヒト」「モノ」「カネ」、「情報」という言葉が使われてきました。企業を経営していく上で、必要となるのは、経営者の意思決定に関わる質の高い「情報」です。ビッグデータ、IoT、AI、ロボットなどの最新ITの発展は、第4次産業革命とも言われ、膨大で多様なデータを評価、分析して、経営の意思決定に活用していくことの重要性が増しています。「データ」とは、事実を表す数字や記号であり、それだけでは役に立ちません。問題解決や課題達成のために、ある目的において解釈・評価された時点で「情報」となるのです。
当研究室では、IT企業で、技術者として、多くの基幹システム、Webシステムの開発に携わり、また、自らも経営者としての経験を持つ教員(村山)の指導の下、さまざまな経営問題に対して、データマーケティングやAI(機械学習)、数理最適化といったコンピュータサイエンスを活用し、マーケティング分析や、ビジネスプロセスの効率化を図る研究を行っています。

データマーケティング(マーケティングリサーチ&データ分析)

データマーケティングは、顧客の行動履歴をもとに商品を提案するなど、データを活用して行うマーケティングの総称です。いくつか例をご紹介します。

新店舗の売上げを予測する
駅前に新店舗を出す際に、既存の駅前店舗の売上高とその駅の乗降客数に着目し、乗降客数が多いほど、売上げが高くなると予想することができますが、それは思いつきであり、根拠になりません。「回帰分析」を使うと、「駅乗降客数」データと「売上高」データの関係性を合理的で客観的な数式にして、数式から予測値を求めることができます。

回帰分析

消費者が何を重視しているかを知る
欲しい機能やサービス、こだわりの材質、好みの色など、商品を構成する要素について、個々に尋ねるアンケートを実施すると、「安くて、いいもの」という結果になってしまい、本当に消費者が重視しているものが見えてきません。実際に、消費者が商品を購入するときは、商品の機能を一つ一つ評価して決めているのではなく、比較的良い、と思うものを総合的に判断して選びます。「コンジョイント分析」では、店頭に並んでいる商品から比較、検討されるのと同様に、各要素の組み合わせを変えた複数の商品案を提示し、それを評価してもらった結果から、要素の影響度を分析することで、消費者が何を重視しているかを知ることができます。

コンジョイント分析

ブランドの特徴をつかむ

オリコンのカフェ満足度調査の棒グラフ
おすすめのカフェランキング2020年 オリコン顧客満足度調査 より作成

これはオリコンによるカフェの満足度調査の結果です。スターバックスがどの項目でも満足度が高いのは分かりますが、個々のカフェの特徴は項目が多くて、よくわかりません。「主成分分析」を用いると項目をまとめることができます。
横軸の主成分、横軸の主成分を求めて要約し、散布図としてプロットすると、ベローチェやPRONTOは、総合力評価ではやや低いものの手軽に利用できる点が評価されていることが分かります。

主成分横軸
第1主成分(横軸)は、通常、総合評価(すべての評価項目が正)になる
主成分縦軸
第2主成分(縦軸)は、「利用のしやすさ」「提供スピード」が大きいことから、「手軽に利用できる」成分と解釈できる
主成分分析
主成分分析の結果をプロットすると、それぞれのカフェの特性が見えてくる


グループ分けをする
似たものグループを作る方法として、「クラスター分析」があります。データの類似度が近いもの同士をまとめてグループ化(クラスター化)していき、最後に全体が1つのグループになります。どのようにまとめたか記録を図示したものをデンドログラムと呼びます。

クラスター分析

デンドログラムに対して、縦の線を入れると、その線とぶつかった横の線が、クラスター数になります。この例では、4つのグループに分類できました。これを先ほどの散布図で示してみると、グループごとの特色や戦略が視覚的に判断できます。

グループ分け

テキストマイニング

テキストマイニングは、大量の文章データ(テキストデータ)から、有益な情報を取り出す手法です。自然言語解析の手法を使って、文章を単語(名詞、動詞、形容詞等)に分割し、それらの出現頻度や相関関係を分析します。では、具体的にはどのようなことのかを説明します。

どんな話題が多いのかを知る
例えば、Yahoo!ニュースで大谷選手の二刀流でのオールスター出場を伝える記事のコメント欄を見て、「ホームランを期待している」「起用法に興味を持っている」という結論を導くには、コメントを見た人の印象だけでは、その言葉が本当に全体を代表しているのか、解釈に差が出てしまいます。かといって、手作業で、1つ1つ言葉を数えて集計するのは大変です。「形態素解析」では、SNSや口コミ、アンケート回答など自由な形式で記述された文章を単語や文節に分割することができます。

形態素解析

抽出された言葉をリスト化したり、ある言葉とある言葉が共に出現する関係性を図示するなど、明確な数値データに基づいた事実や状態、傾向を掴むことができるようになります。

抽出語リスト
「ホームラン」「投手」「DH」といった言葉が多く使われている
共起ネットワーク
ホームラン競争で優勝を期待する声や、起用法(DH、先発、代打、登板)について着目していることが分る

機械学習

機械学習はAI(人工知能)の一分野です。データやパターンからルールを見つけ出す手法で、主な用途は識別と予測です。正解が分っているデータからルールを学習して、未知のデータに対して予測を行う「教師あり機械学習」と、正解データが与えられず未知のデータから規則性を発見する「教師なし機械学習」などに分けられます。解法として、データマーケティングで説明した「回帰分析」などの統計学(多変量解析)の手法や「サポートベクターマシン」、「ニューラルネットワーク」などがあり、問題に応じて使い分けます。AIの代表例としてよく耳にする「ディープラーニング」は、「ニューラルネットワーク」が発展したものです。

解法特徴向いている問題
線形回帰推定したい数値(目的変数)について、多項式により他のデータ(説明変数)で計算するルールを学習する予測した根拠を理解したい問題
サポートベクターマシン(SVM)データを分けるのに線を引いて判定する手法があり、SVMもその一種。曲線を作ることで、複雑なモデルを可能にし、精度を上げている。「カーネル」と呼ばれる関数を指定することで、汎用的に使用できるデータが少ないが、精度が求められる問題
ニューラルネットワーク人の神経を模したネットワーク構造を持つモデル。入力層、出力層、隠れ層から構成され、層と層の間には、ニューロン同士のつながりの強さを示す重みがあるデータが大量にあり、高い精度が求められる問題
機械学習を使ったアプリ
例)機械学習を用いたアプリ

数理最適化(数理計画問題)

与えられた制約条件下で、評価基準(目的関数)を最適な値にするための変数の値を求める手法を数理最適化といいます。数理最適化で扱われる基本モデルのうち、「生産計画問題」と「最小費用流問題」を紹介します。

最適な生産量を決定する
製品ごとの生産量は、需要予測やそれに基づく販売計画によって決定します。工場の生産能力も考慮する必要があります。こうした生産能力などの制約条件のもとで、総利益が最大(総費用が最小)になるような生産量は、数理最適化の「生産計画問題」として求めることができます。

生産計画問題

最小の総輸送費で輸送するルートを決定する
輸送問題」は、複数の工場から、複数の消費地へ、道路ネットワーク上の物流拠点を経由して、最小の総輸送費で、生産地から消費地へ製品を輸送する輸送ルートと輸送量を決定することができます。

最小費用流問題

「輸送問題」は、数理最適化の代表的な問題で、ネットワーク上のモノの流れを扱うネットワーク最適化問題として定式化でき、「最小費用流問題」と呼ばれています。カーナビのルート検索,乗換案内などの「最短路問題」も、ネットワーク最適化問題の一種です。

数理最適化は、他にも、サービスレベルを維持しつつ従業員の労働不可、勤務制限を考慮したシフト勤務表を作成する「スケジューリング問題」など、多数のモデルがあり、さまざまな分野の実問題に対して幅広く適用されています。